心理療法における写真の意義

ひがしすみだカウンセリングルームです。
今日は写真療法のお話。

写真は、日常の一コマを切り取り、記録する。写真を見ながら人はかつてを懐かしむとともに、その当時の感情を追体験することもしばしばあります。かつてカメラは趣味的色彩の強いものでしたが、インスタントカメラやプリクラ、近年はデジタル技術の向上や携帯電話のカメラ機能の普及によって、写真は極めて身近なものとなりました。SNSの爆発的な普及とともに写真をとる行為はもはや日常的なものとなっています。

写真療法の歴史

精神療法の歴史において、写真は70年代頃からアートセラピーの文脈で用いられてきました。カナダの心理学者、芸術療法家の Judy Weiser (1975)が写真療法の概念を提示し、アメリカやフィンランド、モスクワなどで国際的な会議が開催されています(永田2011)。

海外では、フォトセラピーやフォトアートセラピーへの関心は高く、ここ数年でフォトセラピーの分野において新しい事業がたくさん設立され、イタリアやメキシコなどでも関心が高まっているのだそうです。

欧米などではアートセラピーのサブカテゴリーとして発展し、写真について知識や経験のあるアートセラピストが使っている技法ですが、その中でも Judy Weiser は”Photo Therapy Techniques:Exploring the Secrets of Personal Snapshots and Family Albums” (1993)を出版し、ホームページ上などで、「一枚の写真が見る者に人生で関わった何か、誰か、あるいはどこかの場所を思い出させるかもしれない、つまり写真による視覚への刺激により関連する記憶や感情を呼び起こすかもしれない。その結果、さらなる洞察の発見、あるいは突如として心に思い浮かび意識下に引き出された未解決の疑問の再発見につながるかもしれない」と述べています。

国内では山中康裕(1975,1976)が写真を利用した精神療法の過程とその効果を発表し、初めての事例として記録されている。山中は写真療法を1972年に開発し、学会でも発表している。2000年に入ってコンパクトデジタルカメラの普及に伴い、国内でも写真をセラピーに使う機会が増えているようです。写真療法において、写真のカタルシス的利用は無意識表現の代用手段となりうるものであり(Walker, 1982)、機能イメージング技術を用いた脳研究において、視覚および、観ること重要性に関する洞察が得られています(Halkola, U. ,2009)。

心理療法で写真を用いる意義

Hunsberger (1984)によれば、心理療法で写真を用いることの治療的意義をふたつ上げています。①その人の過去についての写真や文書を用いて歴史的にアプローチできる意義、②サイコセラピーや治療的な文脈での文脈でクライエントが写真を撮ることの意義です。また写真療法においては、簡易プリント写真の方が、従来の写真を用いるよりも、治療場面では利点が多いことが示唆されているというのも興味深い話です。

日本における写真療法

本邦では山中の事例研究の他、向山(2005)など、自叙写真と称される、「自身に関連したもの」を撮影してくる技法を用いた研究があります。自分にかかわる写真を通じて、自分が自分をどのように見ているのか表現してもらうものですが、自分では気が付かない自分についてのイメージに気が付くきっかけとなりやすいといわれています。ほかにも野田(1988)による写真投影法を心理療法やアイデンティティの表現に活用する動き(大石2005)や内面把握に用いる動き(都築,2004)などが報告されているなど、写真には大きな可能性があるといえるでしょう。

本邦では写真は投影的な用いられることが多いのですが、酒造(2016)のように、気分のセンシングすなわちセルフモニタリングやメタ認知の手段として写真を用いる試みがなされるようになってきています。酒造らは、写真とその時の気分を測定し記録するスマートフォンアプリを作成し、これらを一か月間利用してもらいました。一か月後、抑うつや不安等の改善は見られなかったものの、写真の評価や自分の感情、特に肯定的感情の語られ方が増えたり、これまでにない良い意味付けがされるようになったというのです。

自分の資源に気づく写真

良い意味付とはなにかというと、イベントのような特別な出来事があってうれしかった、楽しかったという話ばかりでなく、ささやかな一場面を切り取り、肯定的な気分感情を語る頻度が増えるようになったのだそう。

このことから、写真を撮り、それについての感情を記述することにより、セルフモニタリング能力が高められ、否定的感情の緩和よりも、肯定的な気分の向上が望めるのではないかといわれています。

酒造らの研究においては、特定のテーマを撮ることは指定されませんでした、より肯定的なテーマに焦点を当て、写真を撮ってみるということは、メンタルヘルスの向上に割るのではないかと思います。特に、自分を支えてくれるサポート源に焦点を当て、目を向け、記録することというのは、案外自身を支えるリソースへの気づきを高めることにつながるかもしれません。

皆さんも写真療法、ためしてみませんか?

2018年01月17日